京都速報をやっていると毎日新店に訪れる日々ですが、実は吉田類が居そうな渋い酒場に行くのも結構好きです。いや、かなり好きです。

使い込まれたカウンターは古びてはいるけど清潔感があり、今までどれだけ多くの人が腰かけたのか分からないほど歪んだ椅子は柔らかくて妙に座り心地が良い。

安くて旨いアテも手伝ってお酒も進んで、気が付けば大将や隣のお客さんと盛り上がれたりする。

そんな酒場が京都にはたくさんあります。

一昨年より龍谷大学が運営する「食と農の楽しさを伝えるWEBマガジン もぐらぼ」で酒場巡りの記事を書かせていただくようになったのも、色々ご縁があったのと酒場好きが功を奏したからだと思います。

※気になる方は、こちらをご覧下さい。

さて、前置きが長くなりましたが本題へ。

このWEBマガジン「もぐらぼ」で屋外で飲める店を巡る企画が立ち上がった時のことです。一番最初に思い浮かんだお店がこちらでした。

烏丸高辻近くの「因幡堂」の前に佇む「屋台いなば」。

酒場好きにはよく知られているお店です。

昔、京都の酒場本を編集する仕事をしていて載せるお店をリサーチしている時に見つけたのですが、居心地が良く京都で他にはない雰囲気にドハマりして定期的に行くようになりました。

北海道出身の大将が一人で切り盛りする屋台で、煮込みすぎじゃない?と思うほど真っ黒に煮込まれたおでんが名物。

私の父親が北海道出身ということもあり、よく北海道話に花を咲かせました。

実は東京の某有名雑誌の編集長などもお忍びで訪れていて、「同じような仕事だし、繋がったら良いことあるかもしれないね」と編集長が来る日にわざわざ連絡をくれたりする優しい大将でした。

京都速報の立ち上げやらでつい2年ほどご無沙汰していましたが、取材も兼ねて飲みに行こうと思いお店に行くとまさかの休み。

仕方ないと翌日行くとまた休み。

結局その後も営業している日を確認できない日々が続き、気になったので近くにある高木珈琲店に行きお茶しがてらスタッフさんに聞いてみました。

「いなばさん、最近営業されています?」

「大将、病気で亡くなられたんですよ」

いやな予感は的中しました。

ご高齢だったので体調をくずされたのかと心配しておりましたが、想定しうる最悪のケースを突きつけられたのです。

もうこの屋台から笑い声が漏れることも、明かりが灯ることもないと思うと急に寂しくなり、

「もっと顔を出したらよかった…」

と後悔しても後の祭りです。

「屋台いなば」で検索すれば今も多数のブログがヒットし、在りし日の姿が散見されますが、こちらでしっかりと閉店したことをお伝えすることで大将もホッとされるのではないかと思っています。

「店やってへんのに来てもらってごめんな」

そんな心配をしなくていいようにゆっくり眠ってもらえたらと思います。

京都には、他にも後継ぎがいないご高齢店主の名店はたくさんあり、日ごろからその行く末が気になっていましたが、こういう形で灯が消えていくのはやはり残念でなりません。

そして、今のうちに行かなければならないお店というのは、本来こういうお店なのかも知れません。

今しか行くことのできないお店を紹介する連載でも始めようかな。

そんなことが頭をよぎった初夏の日の出来事でした。

合掌

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